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呟きたいときくるところ
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名を返そうと決めたときから。
否、祖母の形見である「友人帳」を受け継いだときから。
日々、妖に追われ関わり名を返す、多忙のときを過ごしている。

用心棒として頼りになるのかならないのかわからないニャンコ先生と、いつものように散歩に行く。
そんな、ある日の出来事。

「ニャンコ先生、ちゃんと歩かないと」
「これは冬毛だといっとろうが阿呆」
「家がつぶれる前に痩せないとな」

招き猫の容姿で家をみしみし言わせる体重とはいかがなものか。
冬になると伸びるという毛のおかげで、ここのところ散歩が日課になりつつあった。
いつもの道を歩き、公園へ向かう。
道中行き合わせた犬をにやりと笑って怯えさせるニャンコ先生を尻目に、空を見上げてため息をついた。

「はぁ・・」
「どうした、夏目」
「いや、いい天気だなぁと思っ・・!?」

ニャンコ先生に答えるため、視線を合わせた瞬間。
驚いて、息が止まりそうになった。
す、っと静かに前を横切った少女の肩に、在るものが見えた。
ニャンコ先生の腹で温め孵し、ともに育てた、あの小さな生き物。

「タマ!?」
「なんだと?」

ふわりと風に髪を遊ばせ、少女が颯爽と歩いていく。
その右肩に、かつてタマと名づけた巽の雛が、ちょこんと乗っていた。

「ちょ、あのっ」
「え?」

咄嗟に、少女を呼び止める。
巽の雛は、さっと少女の長い髪の毛の中に隠れてしまった。

「えっと・・あー、あの、肩に・・」
「・・肩が、何か?」

聞き返され、うろたえた。
こういうときどういっていいものか、迷ってしまう。
この少女が「見える」ものなのかどうか、判断がつきかねた。

「何か、動いたかな、と」

苦し紛れに、苦笑いしつつ言ってみた。
少女は夏目をまっすぐに見ると、くり、と軽く首をかしげる。
一つ瞬きをすると、長いまつげがぱさりと風をなぜた。

「何か、いましたか?」

そう問われ、しばしどうしたものかと思案する。
巽の雛はかつて育てたことがあり、けれど成獣にまでなったはずだ。
一度その背に乗ったことがあるという記憶は、まだ新しい。
雛に戻るということはあり得ないということもまた、わかってはいた。
けれど。

「えーと、あの・・小さい、人形みたいなの、が」

腹を、くくった。
なるようになれ、とばかりに、少女の問いに答える。
答えを聞いた少女は、大きな目で夏目を見据えた。
とたんに、馬鹿なことをしてしまったのではないかという考えが、頭をもたげる。
止めるまもなく、顔が赤くなったのがわかった。

「小さい人形?」

くす、と小さく笑った少女にを前に、非常に居た堪れなくなる。
隣でニャンコ先生が「阿呆め」と小さく呟いたのが聞こえた。
言わなければ良かった、と思った瞬間。

「あなたは、見える人なのね」

そう、小さく呟かれた言葉に、驚いて顔をあげる。
少女の顔を我知らず凝視して、言葉を失った。
バレ、た?

「別に、責めてるわけではないから、気にしないでね。
 あなたの言ったお人形とは、この子のことでしょう」

くすくすと楽しげに微笑み、自身の髪の毛の中に手をつっこむ。
そうしてするりと出された手の中に居たのは、小さな角をもつ人型の、何か。
紛れもなくそれは、巽の雛だった。
ただし、タマではなかったが。

「あ・・・えーと、すいません、見間違ったみたいで、」
「あなた、巽の雛を育てたことがあるんでしょう」

落胆しつつ心のどこかで安心して、ひとまず謝った。
突然失礼なことをしてしまったと、今更ながらに恥ずかしい。
けれど少女の言葉に、また驚かされた。
知っているのか、と。

「そうでなくては・・何故この子に反応するの?
 わかりやすい人ね」

ふふふ、と笑う少女の姿に、何故か祖母レイコの姿が重なった。



「この子は、竜牙。
 アロガ、というのよ」

楽しげに微笑む少女に、威厳のようなものが垣間見えたのは、何故なのかわからなかった。
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