呟きたいときくるところ
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稲葉山からこちら
来てまだ一週間だというのに、大分回復した
栄養失調を起こしていたけれど軽度ですんだし
まだ立てば足腰が弱くなっていてふらつくけれど
日常生活に支障はない
これはやっぱり、場所に関係があるのだろうか、とふと思った
「おう、もう良いようじゃな」
「お館様」
軽い運動がてらに庭を散策していると、いつの間にか背後に信玄がいた。
気配を殺すのは武人である彼なら容易いのかも知れないが、それでも心臓に悪い。
「いるならいると仰っていただきたいものですね」
不服そうな顔でそう言えば、信玄は楽しげに笑って言った。
「なんだ、ならば佐助など、特に神出鬼没ではないか」
言外に己だけではないという意味を込めれば、咲は目を逸らして頬を膨らませる。
後姿からもまだ不機嫌だというオーラが出ているのが見えるようで、信玄はくつくつと笑った。
「佐助の場合はいいんです」
「ほう、何故じゃ?」
「佐助は、来ればわかりますから」
にこりと笑ってそう言えば、信玄はぱちくりと目を瞬かせる。
その様があまりにもおかしくて、咲は噴出してしまった。
「あ、すいません」
「咲、わしでは来たのがわからず佐助ならわかると?」
「そうですね、まぁそれもなんとなくなんですけど・・結構当たったりするんですよ」
穏やかに微笑む咲の傍らで、信玄が考え込む。
気配を消すなら佐助のほうが断然上手いに決まっている。
何せ彼は真田忍軍の長。
上位の忍として活躍しているのだから。
対して信玄もまた気配を消すことが出来るとはいえ、武人として、だ。
忍に敵うはずもないのに。
「ふむ・・・」
「お館様、お仕事の途中ではなかったのですか」
「いや、幸村を捜しておったのだが、見ておらぬか」
「幸さんなら今日は久々のお暇をもらったと、城下へ行きましたよ」
きっとまた甘味屋でしょうね
「そうか、では帰ってきたらわしのところまで来るよう伝えてくれ」
「承りました」
くすくすと笑う咲を見ていると、不思議と心が和む。
信玄はくるりと踵を返すと、来た道を戻っていった。
信玄公が行ってしまうと、咲は縁側に腰を下ろし、草履を脱いだ。
そうして足を抱えて空を見上げ、考え込む。
信玄公は訝しげだったのは、当たり前だと思った。
忍である佐助は来るのがわかって、信玄公はわからないなんて。
「・・普通、逆だもんね」
口調が元に戻るのを気にした様子もなく、咲は1人呟いた。
信玄公に対しては丁寧な言葉を使うよう心がけている。
それは一国の主だからとかじゃなく、なんとなく。
彼は敬われるべき人なのだと、本当になんとなく、思ったから。
ただ、幸村や佐助に対して敬語を使わないのも、なんとなく。
佐助も幸村も気さくで、咎めたりしない。
それに甘えているのかもしれない。
けれど信玄公も、きっと許してくれるだろうに。
敬語を崩さないのは、何故?
「わからないことばっかりだ・・・」
考えれば考えるほどわからなくなる。
今はただ一つでいいから、答えが欲しかった。
私は一体何なのだろう
その問いの答えをくれるのなら、何でもしてやる
今の咲は、そういう気分になっていた
来てまだ一週間だというのに、大分回復した
栄養失調を起こしていたけれど軽度ですんだし
まだ立てば足腰が弱くなっていてふらつくけれど
日常生活に支障はない
これはやっぱり、場所に関係があるのだろうか、とふと思った
「おう、もう良いようじゃな」
「お館様」
軽い運動がてらに庭を散策していると、いつの間にか背後に信玄がいた。
気配を殺すのは武人である彼なら容易いのかも知れないが、それでも心臓に悪い。
「いるならいると仰っていただきたいものですね」
不服そうな顔でそう言えば、信玄は楽しげに笑って言った。
「なんだ、ならば佐助など、特に神出鬼没ではないか」
言外に己だけではないという意味を込めれば、咲は目を逸らして頬を膨らませる。
後姿からもまだ不機嫌だというオーラが出ているのが見えるようで、信玄はくつくつと笑った。
「佐助の場合はいいんです」
「ほう、何故じゃ?」
「佐助は、来ればわかりますから」
にこりと笑ってそう言えば、信玄はぱちくりと目を瞬かせる。
その様があまりにもおかしくて、咲は噴出してしまった。
「あ、すいません」
「咲、わしでは来たのがわからず佐助ならわかると?」
「そうですね、まぁそれもなんとなくなんですけど・・結構当たったりするんですよ」
穏やかに微笑む咲の傍らで、信玄が考え込む。
気配を消すなら佐助のほうが断然上手いに決まっている。
何せ彼は真田忍軍の長。
上位の忍として活躍しているのだから。
対して信玄もまた気配を消すことが出来るとはいえ、武人として、だ。
忍に敵うはずもないのに。
「ふむ・・・」
「お館様、お仕事の途中ではなかったのですか」
「いや、幸村を捜しておったのだが、見ておらぬか」
「幸さんなら今日は久々のお暇をもらったと、城下へ行きましたよ」
きっとまた甘味屋でしょうね
「そうか、では帰ってきたらわしのところまで来るよう伝えてくれ」
「承りました」
くすくすと笑う咲を見ていると、不思議と心が和む。
信玄はくるりと踵を返すと、来た道を戻っていった。
信玄公が行ってしまうと、咲は縁側に腰を下ろし、草履を脱いだ。
そうして足を抱えて空を見上げ、考え込む。
信玄公は訝しげだったのは、当たり前だと思った。
忍である佐助は来るのがわかって、信玄公はわからないなんて。
「・・普通、逆だもんね」
口調が元に戻るのを気にした様子もなく、咲は1人呟いた。
信玄公に対しては丁寧な言葉を使うよう心がけている。
それは一国の主だからとかじゃなく、なんとなく。
彼は敬われるべき人なのだと、本当になんとなく、思ったから。
ただ、幸村や佐助に対して敬語を使わないのも、なんとなく。
佐助も幸村も気さくで、咎めたりしない。
それに甘えているのかもしれない。
けれど信玄公も、きっと許してくれるだろうに。
敬語を崩さないのは、何故?
「わからないことばっかりだ・・・」
考えれば考えるほどわからなくなる。
今はただ一つでいいから、答えが欲しかった。
私は一体何なのだろう
その問いの答えをくれるのなら、何でもしてやる
今の咲は、そういう気分になっていた
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夢現に聞こえる、彼らの声
それが徐々に遠くなっていくことが、恐ろしかった
まるで、二度と聞こえないかもしれないかのように思われて
「・・・あぁ、やはり来ていたんだね」
すらりとふすまを開けた半兵衛が、目の前の2人を前に言い放つ。
開口一番に言う台詞がそれか、と佐助は内心で呆れた。
わかっていて、何故何もせずにおいたのか。
答えは、半兵衛自身も、咲を死なせたくないと思ったからだ。
「豊臣軍師、竹中半兵衛か。
咲は返してもらうぜ」
「・・・・・・ただで帰すとでも?」
「帰すだろ?あんただって、望んでないはずだ」
咲を死なせることは、な
そう言えば、黙ってこちらを見てくる。
図星をつかれているのだろうが、何故か憤っている様子は見受けられない。
やけに静かな態度を崩さない半兵衛を不審に思いながらも、佐助は咲を抱えなおした。
「・・・・じゃあな」
「待て」
一言告げて、去ろうとした佐助に声がかかる。
ぴくりと反応しつつ、背を向けたまま立ち止まって続きを促した。
「・・・彼女は、君達にとって何なんだい?
血のつながりはないんだろう?
本人が言っていたよ、自分には価値がないのだと」
「・・・咲は、取替えようもない、ただ1人の娘だ。
それ以上でも以下でもない」
信玄公の娘でもない。
幸村の許婚でも姉妹でもない。
何の関係もない、ただの力ない平民の娘だ。
それでも佐助たちにとっては、既にかけがえのない存在になっている。
信玄公は娘のように思っているし、幸村も妹のように可愛がっている。
勿論、佐助だとて。
「・・・・・あんただって、咲を殺そうとは思えなくなったんだろう。
咲は不思議に周りを和ませるからな」
最後だけ、ちらりと振り返って笑う。
若干苦笑気味になったのは、咲が理解しがたいほど、不思議に思えたからだ。
何の力もない、ただの娘。
なのに放って置けなく思わせる何かを持っているようで。
そしてそれは、だれかれ構わず感染させてしまう脅威のものだ。
「・・・・そうだね、変な娘だった」
ぽつりと呟かれた声を背に、佐助は姿を消した。
一刻も早く咲をどうにかしなければ、彼女の命が危ない。
少しでも負担を減らしたかったが、何分時間がなかった。
大きな凧に捕まり、空を飛んでいく。
今はただ、腕の中の命が消えないよう祈るばかりで。
部屋に1人残された半兵衛が、そのまま立ち尽くしていたことを佐助は知らない。
次に目が覚めたとき、やけに頭がはっきりしていることに何故か驚いた。
「え?・・・・え、え?」
でもやっぱり状況が理解出来ず、辺りをきょろきょろと見回す。
稲葉山の部屋ではない、とすると何だか見覚えがあるようなないような・・ここはどこ?
上田の自分の部屋にも見えないため、困惑を極める。
何がどうなってここにいるのかさっぱりわからなかった。
意識を失う前に、佐助に抱き上げられた覚えはある。
ということは、少なくとも武田の領地かそこらであるはず。
「・・・佐助?幸さん・・・?お館様ぁー・・」
小さく名を呼ぶ。
静かな部屋でたった一人ということに、何だか寂しさを覚えた。
稲葉山にいたときよりも、何だか酷く寂しい。
今はなんだか人恋しかった。
「あ、起きた?
飯食えるか、咲」
さらっと開けられた障子。
入ってきたのは、佐助だった。
何故か手にはお盆を持って。
侍女のやることなんじゃないの、と思いつつ、顔が緩むのは否めなかった。
「・・ご飯、食べる」
「大丈夫か?」
「へーき。
ありがとう、佐助」
にこにこしながらお礼を言う咲を見て、佐助は内心安堵のため息を吐く。
ここに連れてきて、何故か顔色が良くなってからも安心は出来なかった。
何せしばらく食物を取れなかったらしいから、体は随分衰弱しているだろう。
食欲も戻っているか不安だった。
「・・おかゆ?おいしい・・」
久しぶりに食べたモノに、じわりと嬉しさが広がる。
稲葉山で襲ってきた嘔吐感は今はなく、普通に食べられた。
「胃が弱ってるだろうから、そう急いで食べなくてもいいからな。
ゆっくり治していけばいいさ」
穏やかに笑んで見守ってくれる佐助に、微笑みを返す。
帰ってこれたことが嬉しかった。
何故こんなにも早く回復したのか謎だけれど、今はどうでもよかった。
歓喜が胸の中に沸き起こる。
「嬉しい」
生きていられることが。
また会えたことが。
こうして嬉しいと感じられたことが。
穏やかに過ぎる時間を、黙って受け入れる佐助を、愛おしく思った。
頭の片隅で、都合が良すぎると思う自分がいた。
けれどそれを証明できることも出来なかった。
ここに何かあるのか。
人に何かあるのか。
はたまた、自分に要因があるのだろうか。
考えるタネは尽きなくて、笑顔の裏で、ひっそりとため息を吐いた。
それが徐々に遠くなっていくことが、恐ろしかった
まるで、二度と聞こえないかもしれないかのように思われて
「・・・あぁ、やはり来ていたんだね」
すらりとふすまを開けた半兵衛が、目の前の2人を前に言い放つ。
開口一番に言う台詞がそれか、と佐助は内心で呆れた。
わかっていて、何故何もせずにおいたのか。
答えは、半兵衛自身も、咲を死なせたくないと思ったからだ。
「豊臣軍師、竹中半兵衛か。
咲は返してもらうぜ」
「・・・・・・ただで帰すとでも?」
「帰すだろ?あんただって、望んでないはずだ」
咲を死なせることは、な
そう言えば、黙ってこちらを見てくる。
図星をつかれているのだろうが、何故か憤っている様子は見受けられない。
やけに静かな態度を崩さない半兵衛を不審に思いながらも、佐助は咲を抱えなおした。
「・・・・じゃあな」
「待て」
一言告げて、去ろうとした佐助に声がかかる。
ぴくりと反応しつつ、背を向けたまま立ち止まって続きを促した。
「・・・彼女は、君達にとって何なんだい?
血のつながりはないんだろう?
本人が言っていたよ、自分には価値がないのだと」
「・・・咲は、取替えようもない、ただ1人の娘だ。
それ以上でも以下でもない」
信玄公の娘でもない。
幸村の許婚でも姉妹でもない。
何の関係もない、ただの力ない平民の娘だ。
それでも佐助たちにとっては、既にかけがえのない存在になっている。
信玄公は娘のように思っているし、幸村も妹のように可愛がっている。
勿論、佐助だとて。
「・・・・・あんただって、咲を殺そうとは思えなくなったんだろう。
咲は不思議に周りを和ませるからな」
最後だけ、ちらりと振り返って笑う。
若干苦笑気味になったのは、咲が理解しがたいほど、不思議に思えたからだ。
何の力もない、ただの娘。
なのに放って置けなく思わせる何かを持っているようで。
そしてそれは、だれかれ構わず感染させてしまう脅威のものだ。
「・・・・そうだね、変な娘だった」
ぽつりと呟かれた声を背に、佐助は姿を消した。
一刻も早く咲をどうにかしなければ、彼女の命が危ない。
少しでも負担を減らしたかったが、何分時間がなかった。
大きな凧に捕まり、空を飛んでいく。
今はただ、腕の中の命が消えないよう祈るばかりで。
部屋に1人残された半兵衛が、そのまま立ち尽くしていたことを佐助は知らない。
次に目が覚めたとき、やけに頭がはっきりしていることに何故か驚いた。
「え?・・・・え、え?」
でもやっぱり状況が理解出来ず、辺りをきょろきょろと見回す。
稲葉山の部屋ではない、とすると何だか見覚えがあるようなないような・・ここはどこ?
上田の自分の部屋にも見えないため、困惑を極める。
何がどうなってここにいるのかさっぱりわからなかった。
意識を失う前に、佐助に抱き上げられた覚えはある。
ということは、少なくとも武田の領地かそこらであるはず。
「・・・佐助?幸さん・・・?お館様ぁー・・」
小さく名を呼ぶ。
静かな部屋でたった一人ということに、何だか寂しさを覚えた。
稲葉山にいたときよりも、何だか酷く寂しい。
今はなんだか人恋しかった。
「あ、起きた?
飯食えるか、咲」
さらっと開けられた障子。
入ってきたのは、佐助だった。
何故か手にはお盆を持って。
侍女のやることなんじゃないの、と思いつつ、顔が緩むのは否めなかった。
「・・ご飯、食べる」
「大丈夫か?」
「へーき。
ありがとう、佐助」
にこにこしながらお礼を言う咲を見て、佐助は内心安堵のため息を吐く。
ここに連れてきて、何故か顔色が良くなってからも安心は出来なかった。
何せしばらく食物を取れなかったらしいから、体は随分衰弱しているだろう。
食欲も戻っているか不安だった。
「・・おかゆ?おいしい・・」
久しぶりに食べたモノに、じわりと嬉しさが広がる。
稲葉山で襲ってきた嘔吐感は今はなく、普通に食べられた。
「胃が弱ってるだろうから、そう急いで食べなくてもいいからな。
ゆっくり治していけばいいさ」
穏やかに笑んで見守ってくれる佐助に、微笑みを返す。
帰ってこれたことが嬉しかった。
何故こんなにも早く回復したのか謎だけれど、今はどうでもよかった。
歓喜が胸の中に沸き起こる。
「嬉しい」
生きていられることが。
また会えたことが。
こうして嬉しいと感じられたことが。
穏やかに過ぎる時間を、黙って受け入れる佐助を、愛おしく思った。
頭の片隅で、都合が良すぎると思う自分がいた。
けれどそれを証明できることも出来なかった。
ここに何かあるのか。
人に何かあるのか。
はたまた、自分に要因があるのだろうか。
考えるタネは尽きなくて、笑顔の裏で、ひっそりとため息を吐いた。
見つけた瞬間、力が抜けかけて危なかった
最後に会ったのはいつだったか
随分と変わってしまった風貌に、愕然とした
「・・・咲?咲ちゃん、」
「・・・・・・・・さすけ?おはよ、ぉ」
若干震える手で、咲の頬を軽く撫でる。
白い顔、こけた頬に隈。
僅か数週間前の咲とあまりにも違って見えて、驚愕を隠せない。
小さく名を呼べば、僅かな後に目を開け、小さく返答してくる。
ふにゃ、と表情を緩める様に僅かなりとほっとするが、それでも儚い印象は消えない。
何故こんな風になっているのか。
誰がこんなことを?
「ごめんね、さすけ・・・めいわく、また、かけちゃった・・」
小さく掠れた声で、途切れ途切れに話す咲を見ていると苦しくなる。
顔にかかる髪を避けてやりながら、せいいっぱい平気そうに見えるよう、接した。
「馬鹿だな、こんなの屁でもないさ。
さぁ帰ろう、旦那やお館様が心配してる」
「・・かえったら、ふたりにも、あやまらなきゃ・・・」
「それはいいから、まずは元気になってくれよ。
咲が元気ないと旦那まで調子狂うだろうからな」
でもね、あたし、みんなにね・・・
小さな声で呟き続ける咲にうんうんと頷きつつ、佐助は咲を抱き上げた。
されるがままになっている咲が、酷く軽いということにショックを受ける。
初めて会った日も、抱き上げて城へ運んだこともあったから、以前との差が激しすぎる。
「咲、ちゃんと飯、食ってたか?」
「んーん・・ごはん、たべられなくて・・・はんべえも、こまらせちゃった」
虚ろな目で答える咲を見て、これは早々に対処させねば危ないと判断する。
しばらく何も食べられなかったのだろう、酷い衰弱振りに焦りを覚える。
「はんべえ、って、竹中半兵衛のこと?
そういえば、何か嫌なことされなかった?
怪我は?病気は?」
唐突に慌てて、咲の様子を調べる。
「・・・んーん、よくしてもらった・・・けがも、びょうきも、ないよ」
うつらうつらしながらの返答に、はた、と部屋の中を見回してみる。
覚えば、人質であろう咲の立場でこの部屋は、若干分不相応だと感じた。
竹中半兵衛は確かに咲を大事にしてくれたんだろう。
だからと言って許せるとは思わないが。
「だからね、いくさ・・しないで・・・だめ?」
目を眠気で潤ませ、見上げてくる咲に内心で頭を垂れる。
負けそうになる自分を殴り飛ばしたくなった。
「それはお館様と旦那が考えることさ。
さ、いいから寝ててくれ、体力は温存しとかなきゃ。
城に帰ったらご飯食べて、早く元気になろうな」
薄めの布団ごと咲を抱き上げ、ついでにそれで包む。
思わぬ時間を食ってしまったため、急いで部屋を出ようとしたその刹那に、気づく。
部屋に近づいてくる、足音。
気配から察するに、城の主である、竹中半兵衛とみた。
暫く悩んだ末、佐助はあえて対峙することを選んだ。
何故そうすることを選んだのか、は、神のみぞ知る。
ゆらゆらと揺れ、自分の体が誰かに抱き上げられているのがわかる。
久しぶりに会う佐助に大きな安心感を与えられ、酷く眠かった。
ただ、出て行く前に、半兵衛に何か伝えられたら。
そう思いながら、夢の中に堕ちていった。
最後に会ったのはいつだったか
随分と変わってしまった風貌に、愕然とした
「・・・咲?咲ちゃん、」
「・・・・・・・・さすけ?おはよ、ぉ」
若干震える手で、咲の頬を軽く撫でる。
白い顔、こけた頬に隈。
僅か数週間前の咲とあまりにも違って見えて、驚愕を隠せない。
小さく名を呼べば、僅かな後に目を開け、小さく返答してくる。
ふにゃ、と表情を緩める様に僅かなりとほっとするが、それでも儚い印象は消えない。
何故こんな風になっているのか。
誰がこんなことを?
「ごめんね、さすけ・・・めいわく、また、かけちゃった・・」
小さく掠れた声で、途切れ途切れに話す咲を見ていると苦しくなる。
顔にかかる髪を避けてやりながら、せいいっぱい平気そうに見えるよう、接した。
「馬鹿だな、こんなの屁でもないさ。
さぁ帰ろう、旦那やお館様が心配してる」
「・・かえったら、ふたりにも、あやまらなきゃ・・・」
「それはいいから、まずは元気になってくれよ。
咲が元気ないと旦那まで調子狂うだろうからな」
でもね、あたし、みんなにね・・・
小さな声で呟き続ける咲にうんうんと頷きつつ、佐助は咲を抱き上げた。
されるがままになっている咲が、酷く軽いということにショックを受ける。
初めて会った日も、抱き上げて城へ運んだこともあったから、以前との差が激しすぎる。
「咲、ちゃんと飯、食ってたか?」
「んーん・・ごはん、たべられなくて・・・はんべえも、こまらせちゃった」
虚ろな目で答える咲を見て、これは早々に対処させねば危ないと判断する。
しばらく何も食べられなかったのだろう、酷い衰弱振りに焦りを覚える。
「はんべえ、って、竹中半兵衛のこと?
そういえば、何か嫌なことされなかった?
怪我は?病気は?」
唐突に慌てて、咲の様子を調べる。
「・・・んーん、よくしてもらった・・・けがも、びょうきも、ないよ」
うつらうつらしながらの返答に、はた、と部屋の中を見回してみる。
覚えば、人質であろう咲の立場でこの部屋は、若干分不相応だと感じた。
竹中半兵衛は確かに咲を大事にしてくれたんだろう。
だからと言って許せるとは思わないが。
「だからね、いくさ・・しないで・・・だめ?」
目を眠気で潤ませ、見上げてくる咲に内心で頭を垂れる。
負けそうになる自分を殴り飛ばしたくなった。
「それはお館様と旦那が考えることさ。
さ、いいから寝ててくれ、体力は温存しとかなきゃ。
城に帰ったらご飯食べて、早く元気になろうな」
薄めの布団ごと咲を抱き上げ、ついでにそれで包む。
思わぬ時間を食ってしまったため、急いで部屋を出ようとしたその刹那に、気づく。
部屋に近づいてくる、足音。
気配から察するに、城の主である、竹中半兵衛とみた。
暫く悩んだ末、佐助はあえて対峙することを選んだ。
何故そうすることを選んだのか、は、神のみぞ知る。
ゆらゆらと揺れ、自分の体が誰かに抱き上げられているのがわかる。
久しぶりに会う佐助に大きな安心感を与えられ、酷く眠かった。
ただ、出て行く前に、半兵衛に何か伝えられたら。
そう思いながら、夢の中に堕ちていった。
半兵衛が、人質の身である自分を気遣ってくれているのはわかる
それでも食べ物を体が受け付けなくて、何故なのかもわからない
今はひたすらに、懐かしいあの城へ帰りたかった
すたん、とふすまが閉まる音を機に、目を開ける。
半兵衛が出て行くまで眠ったふりをして、出て行けばまた目を開けるのはいつものこと。
「・・・・しんぱい、してくれてるんだろう、なぁ」
虚ろになりゆく心を必死で抑えて、日々命を細々とつないでいく。
きっと永くはないだろうとは思えても、今はまだ死ねなかった。
お館様や幸さん、佐助にも迷惑をかけたまま恩返しをしていない。
何より、半兵衛に情が移ってしまったのか、彼に迷惑をかけたまま死にたくなかった。
こんな境遇に陥ったのは、彼のせいではあるのだけれど。
彼が自分に優しいのは、痛いくらいにわかっていたから。
「・・ねむたいのは、ぼうえいほんのう・・?」
うつらうつらとしているのは、少ない体力を温存させるための本能か。
食べ物を受け付けない体になっても、生きるのを諦めていないことがわかる。
ならば何故、食べられなくなったのだろう。
「いつから、だったかなぁ・・・ごはん、の、におい・・が・・・」
ぽつぽつと思い出しながら言葉にしていくうち、唐突に睡魔に襲われる。
衰弱するごとに睡魔に襲われる回数は増えていく。
きっとそれだけ、死に近づいているのだろう。
咲はそのまま眠りについた。
命の残りは、あとわずか。
眠りながら思った。
お館様や幸村や佐助、上田城に居る皆に会いたい。
稲葉山で世話になった侍女や医師も、私が死ねば迷惑がかかるだろう。
半兵衛も目論見が外れて、また大変になるかもしれない。
彼らに迷惑をかけるのは、嫌だなぁ
ただそれだけが根底にあって。
それでも生きる気力が吸い取られていくような感じを受け、力も湧かない。
自分に起こる理解不能な出来事に、とうとう音を上げたのかもしれない。
全てがどうでもよくなる前に、彼らに会えたら、と思った。
「旦那、今何て言った?」
「咲が攫われた。
方々捜したが見つからぬ・・頼む、佐助。
あとはお前だけが咲を・・・・」
心底悔しそうに告げる己の主を前に、思考が働かない。
忍が冷静さを欠いてどうする、頭の何処かでそんなことを言う自分がいる。
思い切り無様なほど動揺したのは、攫われたのが咲だったからか。
まさか、という思いが頭を占める。
「・・・豊臣は、動いてないんだな?」
「うぬ、お館様も何かあると思っているようだ。
佐助・・お前はどう思う?」
「・・・・・断定するのは難しい。
が、行ってみる価値はありそうだ」
すぅ、と頭が冷えていく。
いくら動揺したとはいえ、この切り替えが出来ねば忍は勤まらない。
咲は、きっと豊臣に攫われた。
「・・・まずは、稲葉山城に行く。
旦那はお館様のところに居てくれ。
予想が確定次第、伝令を飛ばす。
豊臣秀吉は大阪城、竹中半兵衛は稲葉山にいるから、旦那達は大阪に行ってくれ」
「うむ、承知した!
佐助・・・咲を、頼んだ!」
強い瞳で見つめてくる幸村に、同じ瞳で応える。
言葉などなくとも、伝わったはずだ。
佐助は善は急げとばかりに、主の前から姿を消した。
向かうは、稲葉山。
その頃、稲葉山の咲は。
ふ、と眠りに落ちたときと同じように唐突に、意識が浮上する。
ぱちりと目を開けると、天井を暫し見つめたあと、力の入らない手をせいいっぱい掲げる。
「・・ここにいるよ・・・さすけ」
ふわりと綻んだ笑みは、まさに花が咲いたかのように。
心からの喜びをかたちで表したかのようだった。
それでも食べ物を体が受け付けなくて、何故なのかもわからない
今はひたすらに、懐かしいあの城へ帰りたかった
すたん、とふすまが閉まる音を機に、目を開ける。
半兵衛が出て行くまで眠ったふりをして、出て行けばまた目を開けるのはいつものこと。
「・・・・しんぱい、してくれてるんだろう、なぁ」
虚ろになりゆく心を必死で抑えて、日々命を細々とつないでいく。
きっと永くはないだろうとは思えても、今はまだ死ねなかった。
お館様や幸さん、佐助にも迷惑をかけたまま恩返しをしていない。
何より、半兵衛に情が移ってしまったのか、彼に迷惑をかけたまま死にたくなかった。
こんな境遇に陥ったのは、彼のせいではあるのだけれど。
彼が自分に優しいのは、痛いくらいにわかっていたから。
「・・ねむたいのは、ぼうえいほんのう・・?」
うつらうつらとしているのは、少ない体力を温存させるための本能か。
食べ物を受け付けない体になっても、生きるのを諦めていないことがわかる。
ならば何故、食べられなくなったのだろう。
「いつから、だったかなぁ・・・ごはん、の、におい・・が・・・」
ぽつぽつと思い出しながら言葉にしていくうち、唐突に睡魔に襲われる。
衰弱するごとに睡魔に襲われる回数は増えていく。
きっとそれだけ、死に近づいているのだろう。
咲はそのまま眠りについた。
命の残りは、あとわずか。
眠りながら思った。
お館様や幸村や佐助、上田城に居る皆に会いたい。
稲葉山で世話になった侍女や医師も、私が死ねば迷惑がかかるだろう。
半兵衛も目論見が外れて、また大変になるかもしれない。
彼らに迷惑をかけるのは、嫌だなぁ
ただそれだけが根底にあって。
それでも生きる気力が吸い取られていくような感じを受け、力も湧かない。
自分に起こる理解不能な出来事に、とうとう音を上げたのかもしれない。
全てがどうでもよくなる前に、彼らに会えたら、と思った。
「旦那、今何て言った?」
「咲が攫われた。
方々捜したが見つからぬ・・頼む、佐助。
あとはお前だけが咲を・・・・」
心底悔しそうに告げる己の主を前に、思考が働かない。
忍が冷静さを欠いてどうする、頭の何処かでそんなことを言う自分がいる。
思い切り無様なほど動揺したのは、攫われたのが咲だったからか。
まさか、という思いが頭を占める。
「・・・豊臣は、動いてないんだな?」
「うぬ、お館様も何かあると思っているようだ。
佐助・・お前はどう思う?」
「・・・・・断定するのは難しい。
が、行ってみる価値はありそうだ」
すぅ、と頭が冷えていく。
いくら動揺したとはいえ、この切り替えが出来ねば忍は勤まらない。
咲は、きっと豊臣に攫われた。
「・・・まずは、稲葉山城に行く。
旦那はお館様のところに居てくれ。
予想が確定次第、伝令を飛ばす。
豊臣秀吉は大阪城、竹中半兵衛は稲葉山にいるから、旦那達は大阪に行ってくれ」
「うむ、承知した!
佐助・・・咲を、頼んだ!」
強い瞳で見つめてくる幸村に、同じ瞳で応える。
言葉などなくとも、伝わったはずだ。
佐助は善は急げとばかりに、主の前から姿を消した。
向かうは、稲葉山。
その頃、稲葉山の咲は。
ふ、と眠りに落ちたときと同じように唐突に、意識が浮上する。
ぱちりと目を開けると、天井を暫し見つめたあと、力の入らない手をせいいっぱい掲げる。
「・・ここにいるよ・・・さすけ」
ふわりと綻んだ笑みは、まさに花が咲いたかのように。
心からの喜びをかたちで表したかのようだった。
あれから、病状が悪化した
どんどん衰弱していく体に、次第にぼんやりする頭
このまま死んでいくのか、とぽつりと思った
「それで?
容態はどうなんだ」
「このままでは命も危ないかと」
「君がどうにかしたまえ。
その為の知識だろう」
「・・御意」
医者を下がらせた後、暫し黙考する。
自分の計画通りに行かない苛立ちを隠しもせず、次なる手を考えた。
人質が死ぬ前に、武田と交渉をしなくては。
「・・・いや、だめか」
何故か今は、死なせるのが惜しくなった。
そう思う自分にも腹を立てつつ、部屋を出た。
行き先はここ最近いつも足を運ぶようになった、あの少女のもと。
さらりとふすまを開け、閉じる。
目線の先には、目を閉じて微動だにしない、咲。
黙ったまま布団の側まで行くと、ふっと目を開けた。
半兵衛は咲を見つめつつ座り、咲の熱を自らの手で計る。
何故このようなことをするようになったのかは、忘れてしまった。
この一連の動作が、いつものことで。
「・・・今日は、どうだい」
「・・わかんない・・・ふつう、かも」
「また何も食べなかったんだって?」
「ごはん、はいらなくて」
「食べなければ体力も戻らない。
このままでは死んでしまうよ」
「・・・でも、はいらなくて・・どうしてだろう」
むりやりいれても、はいちゃうの・・もったいないね
天井を虚ろな目で見つめ、ぽつぽつと小さな声で喋る咲はまるで幼子のようで。
見ていると、無性に焦りや苛立ちを感じてしまう。
頬が若干こけ、隈が出来、生気が薄れている姿は、何処か花よりも儚いように見えて。
余計に焦燥感が湧いた。
「・・・・きっとさすけはいま、おだわらあたりかな」
ふと呟かれた言葉に、内心で首を傾げる。
武田の忍が何故小田原に行く必要があって、しかもそれを咲が何故知っているのか。
「何故だい?」
「・・・ん、なんとなく・・・でもそろそろ、そうなんじゃないかなとおもって」
ふ、と表情を和らげる。
咲がこうして僅かなりとも表情を動かすときというのは、大抵武田の3人が絡んだときだけだ。
それほどに帰りたいと願うのか。
己の自覚しないうちに死に近づいていても。
ただ、それだけを願っているのか。
それを考えると、半兵衛の中で何か蟠っていくのを感じる。
「・・・そんなに、帰りたいかい?」
「かえらせて、くれるの?」
「・・・・・・いや、」
「・・・ふふ、そうだろうとおもった」
力ない声で、虚ろに笑う。
もうその内に絶望しか抱いていないように見えて、酷く苦しくなる。
彼女がここに居る以上、事態は好転しないことは目に見えている、けれど。
何故か武田へ帰そうとは思わなかった。
それほどの価値がこの少女のあるのかどうか。
半兵衛はそれらを計りかね、腕組みをして考え込んだ。
「・・・はんべえ、ねむいの?」
考え込むこと僅か。
横を見れば、咲がこちらを向き、へらりと笑って言った。
目を閉じていたからか、そう言われて、半兵衛は眉根を少し寄せる。
「眠いのは、君のほうだろう。
いいから寝て居たまえ」
「・・ん」
掛け布団を首まで上げてやれば、素直に寝る体勢に入る。
素直にそうするところを見ると、大分ココロを許してきているのか。
はたまた弱ったせいで思考能力も低下しているのか。
半兵衛は前者であったらいい、とちらりと思った。
「・・さて」
咲が寝たのを見届けて、部屋を出る。
こうして咲の部屋を訪れ、咲が寝たのを確認してから出て行く、ということが日課になりつつあった。
城の者には咲の存在を知らせておらず、知っているのは世話をしている侍女と医者、そして秀吉のみ。
秀吉は半兵衛の酔狂な振る舞いを見ても、半兵衛に全てを委ねたまま。
何を思っているかはわからないが、我関せずの態度だ。
半兵衛もそれのほうが動きやすいので、何も言わない。
ただ、秀吉もこの先人質である少女をどうするかだけは若干気になるらしく、それだけは問うてくる。
半兵衛もまた考えあぐねているところなので、返答は待ってもらっている最中で。
「・・・・・・どうしようかな」
計画は上手くいかず、考えも乱されるばかり。
けれど側に居れば心静かで居られるのは、何故なのか。
きっとその謎は、半兵衛自身では一生解けないような気がした。
一方その頃、武田では。
消えた咲の行方を必死で探す武田主従の姿が見られた。
戦をするはずが一向に豊臣方が仕掛けてこないのをいいことに、兵を総動員してまで捜索が連日続く。
けれど見つかることもなく、佐助は任務で国内を飛び回っている。
全ては佐助が帰ってくるのを待つしかないように思われた。
どんどん衰弱していく体に、次第にぼんやりする頭
このまま死んでいくのか、とぽつりと思った
「それで?
容態はどうなんだ」
「このままでは命も危ないかと」
「君がどうにかしたまえ。
その為の知識だろう」
「・・御意」
医者を下がらせた後、暫し黙考する。
自分の計画通りに行かない苛立ちを隠しもせず、次なる手を考えた。
人質が死ぬ前に、武田と交渉をしなくては。
「・・・いや、だめか」
何故か今は、死なせるのが惜しくなった。
そう思う自分にも腹を立てつつ、部屋を出た。
行き先はここ最近いつも足を運ぶようになった、あの少女のもと。
さらりとふすまを開け、閉じる。
目線の先には、目を閉じて微動だにしない、咲。
黙ったまま布団の側まで行くと、ふっと目を開けた。
半兵衛は咲を見つめつつ座り、咲の熱を自らの手で計る。
何故このようなことをするようになったのかは、忘れてしまった。
この一連の動作が、いつものことで。
「・・・今日は、どうだい」
「・・わかんない・・・ふつう、かも」
「また何も食べなかったんだって?」
「ごはん、はいらなくて」
「食べなければ体力も戻らない。
このままでは死んでしまうよ」
「・・・でも、はいらなくて・・どうしてだろう」
むりやりいれても、はいちゃうの・・もったいないね
天井を虚ろな目で見つめ、ぽつぽつと小さな声で喋る咲はまるで幼子のようで。
見ていると、無性に焦りや苛立ちを感じてしまう。
頬が若干こけ、隈が出来、生気が薄れている姿は、何処か花よりも儚いように見えて。
余計に焦燥感が湧いた。
「・・・・きっとさすけはいま、おだわらあたりかな」
ふと呟かれた言葉に、内心で首を傾げる。
武田の忍が何故小田原に行く必要があって、しかもそれを咲が何故知っているのか。
「何故だい?」
「・・・ん、なんとなく・・・でもそろそろ、そうなんじゃないかなとおもって」
ふ、と表情を和らげる。
咲がこうして僅かなりとも表情を動かすときというのは、大抵武田の3人が絡んだときだけだ。
それほどに帰りたいと願うのか。
己の自覚しないうちに死に近づいていても。
ただ、それだけを願っているのか。
それを考えると、半兵衛の中で何か蟠っていくのを感じる。
「・・・そんなに、帰りたいかい?」
「かえらせて、くれるの?」
「・・・・・・いや、」
「・・・ふふ、そうだろうとおもった」
力ない声で、虚ろに笑う。
もうその内に絶望しか抱いていないように見えて、酷く苦しくなる。
彼女がここに居る以上、事態は好転しないことは目に見えている、けれど。
何故か武田へ帰そうとは思わなかった。
それほどの価値がこの少女のあるのかどうか。
半兵衛はそれらを計りかね、腕組みをして考え込んだ。
「・・・はんべえ、ねむいの?」
考え込むこと僅か。
横を見れば、咲がこちらを向き、へらりと笑って言った。
目を閉じていたからか、そう言われて、半兵衛は眉根を少し寄せる。
「眠いのは、君のほうだろう。
いいから寝て居たまえ」
「・・ん」
掛け布団を首まで上げてやれば、素直に寝る体勢に入る。
素直にそうするところを見ると、大分ココロを許してきているのか。
はたまた弱ったせいで思考能力も低下しているのか。
半兵衛は前者であったらいい、とちらりと思った。
「・・さて」
咲が寝たのを見届けて、部屋を出る。
こうして咲の部屋を訪れ、咲が寝たのを確認してから出て行く、ということが日課になりつつあった。
城の者には咲の存在を知らせておらず、知っているのは世話をしている侍女と医者、そして秀吉のみ。
秀吉は半兵衛の酔狂な振る舞いを見ても、半兵衛に全てを委ねたまま。
何を思っているかはわからないが、我関せずの態度だ。
半兵衛もそれのほうが動きやすいので、何も言わない。
ただ、秀吉もこの先人質である少女をどうするかだけは若干気になるらしく、それだけは問うてくる。
半兵衛もまた考えあぐねているところなので、返答は待ってもらっている最中で。
「・・・・・・どうしようかな」
計画は上手くいかず、考えも乱されるばかり。
けれど側に居れば心静かで居られるのは、何故なのか。
きっとその謎は、半兵衛自身では一生解けないような気がした。
一方その頃、武田では。
消えた咲の行方を必死で探す武田主従の姿が見られた。
戦をするはずが一向に豊臣方が仕掛けてこないのをいいことに、兵を総動員してまで捜索が連日続く。
けれど見つかることもなく、佐助は任務で国内を飛び回っている。
全ては佐助が帰ってくるのを待つしかないように思われた。