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呟きたいときくるところ
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今まで親の恩恵でぬくぬくと過ごしていたのに
日々の諸々に感動することもなく
つまらないと感じていた

これは、その罰?

光雲の行く末1


「はぁ・・・・はぁ、」

森を彷徨ううちに、時間の感覚がなくなった。
どれくらい歩いたのか、真っ直ぐに進んでいるのかすらわからない。
地に高低の差がないため、どうやら山などではなく、本当に森らしい。
それでも今の千代に救いがあるわけではなかった。
ずっと歩き続けているため、既に息は上がり、制服や靴は汚れてどろどろだ。
これは一度・・否、3・4度くらい木の根っこや何かに躓いてこけたせいでもある。
千代は考えることも億劫になって、ただひたすら獣道を歩き続けた。
人口ではない小さく粗末な道は、まだ途切れない。

がっ

「っ!」

ばたんっ

「・・・・・っ!!」

石ころに足を取られて、手をつく暇もなく転ぶ。
危機感からか無意識に反り返ったため盛大に胸を打ち、一瞬息が出来なくなった。
すぐに呼吸が落ち着いても、立ち上がることが出来ない。
疲れで意識は朦朧とし、足に力が入らない。
もう、立ち上がる気力はなかった。

(・・・・ねむい、)

疲れが一気に押し寄せて来て、強烈な睡魔に襲われた。
抗う気力もない千代はあっさりと攫われ、早々に夢の世界へ行ってしまった。


千代が眠って数分後、一頭の白い牡鹿が現れた。
立派な角を持ち、堂々とした出で立ちは森の主と見紛うようで。
その牡鹿は、倒れ伏す千代を見つけると寸の間立ち止まり、静かな目で見つめた。
そうして僅かな間のあと、牡鹿は千代に近寄り、少し匂いを嗅いだ。
牡鹿はまた少し間を取ると、唐突に千代の隣に腰を下した。
まるで、千代を護ろうとするかのように。
牡鹿は黙って寄り添い、千代が目覚めるのを待っているようだった。
不思議な牡鹿によるものか何なのか。
千代と牡鹿を取り巻く緑が、怪しく動いていたのは誰も見るものが居なかった。





がさっ

「ぶはっ・・んだこりゃっ・・・なーんでここらへんだけこんなに茂ってるわけ?」

この間まで普通だったはずなのにー・・

ぶつぶつと呟きながら茂みをかき分けて現れたのは、黒い羽を纏う忍の男だった。
衣装は迷彩柄で、赤茶の髪、顔にはペイントが入っている。
忍とは思えぬ緩さで、髪や衣につく葉っぱを無造作に払いつつ、辺りを見回す。
ふと視界の端に白いものが見えたと思った途端に先ほどまでの緩い雰囲気が消えた。
そこにいるのは歴戦を経た凄腕の忍。
ばっと音が出ていそうなほど素早く、そちらのほうを向く。
白いものが見えたと思ったが、そこにいたのはぼろぼろになった娘だった。

「・・・こりゃあ・・・人間、だよな?」

あまりにもぼろぼろで汚れている上に、これだけ騒いでも微動だにしない。
息をしているかすら危ういと思い手を口元にやれば、幽かにでも呼吸はあった。

「・・さて・・・」

うーん、と暫し悩んだあと、閃いたといわんばかりにぽんと手を叩く。
にやりと笑むと、千代を抱き上げ、ついでに横に転がる千代のカバンを持つ。

「連れてっちゃえ♪」

きっと旦那とお館様がここに居たら連れてくっしょー

そう呟いて、千代を連れて姿を消した。
あとに残る黒い羽だけが、男が居た名残だった。



誰も居なくなったところに、すぅ、と白い牡鹿が姿を現す。
何か思案げに、けれど何を考えているかはわからない不思議な様子は相変わらずで。
ただ千代が居たその場所を、見つめていた。
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日々の出来事を単調に感じながら生きるのは、とても意味がない
むしろ、贅沢モノなのだと非難されたこともあるけれど
それでもそう思い続けてしまうのは、仕方がない

だって、つまらないんだもの


光雲の行方 0


「うああぁさむいいぃ」

コートの襟元を寄せ身を縮め、寒風から身を護りつつ歩く。
今日も日々の学業を難なく終え、今は家に帰るため1人家への道を辿る最中だ。
師走の月に入り、多少の風と昨日よりも低い気温。
制服のスカートから覗く足は、既に感覚がないくらい冷え切っていた。
がちがちと震えながらもひたすらに歩む千代の頭の中は、早くも暖を取ることでいっぱいだった。

「だーーーっ寒すぎる!神様のばか!!」

やけになり神様に八つ当たりをするも、寒さが変わるわけもない。
ただ急いで家に帰るしか、この寒さから逃げる術はない。

「ああああもおおおぉ寒いーーーーーー」

なおも小声で唸りながら、歩道を左に曲がろうとした、その時だった。

ぴかっ

「っ!(まぶしっ)」

視界の端っこで、激しい光が瞬くのを感じ、一瞬両目を閉じる。
刹那の時だけだったから、その間も歩みは止めなかった。
けれど、すぐに目を開いた後、心底驚き立ち止まる。


「・・・・・いや、ここ何処」

目を開けて、いつもどおりに角を曲がり、家までの道を辿り続ける。
普段なら角を曲がれば右手に公園があるはずだった。
それなのに。

「森?何で森?つーか・・・もう意味が解らない」

普段から小説を読むのが好きだった自分。
インターネットが普及してきてからは、当たり前のように夢小説にもハマった。
特に好んで読んでいたのは、トリップもの。
現代に生きる主人公が戦国時代やら魔法の国やら別の世界へと突如行ってしまう。
そんな話ばかりを読んでいた時期もあった。
自分を主人公に置き換えたりと妄想もしていた。
所謂腐女子と呼ばれる、けれど隠れの千代。

「・・・・だからってまさか本当にこんなん起こるなんて、ある・・わけ・・・」

途中で言葉が途切れる。
力が抜け、声を出すことすら出来なくなった。
あるわけないと思っていた、思っていたけれど、実際に起こってしまった今。
こうした不慮の事態に対応出来るような神経を千代は持ち合わせていなかった。

「(一般人にはこういった事態に対処出来る能力とかオプション扱いだろ・・・)」

脱力しつつも考えることは出来る。
まずはここが何処なのかを知らなければならないと思った。
徐々に恐怖が滲み出てくるのを感じながら、辺りをきょろきょろと見回す。
これと言って特徴のない、けれど大きな木が密生した森。
木々の奥を見ようにも、あまりに広いのか、同じような景色が続く。
あまりにも深い森にいるのか、ただ単に千代が森のど真ん中にいるのか。
それすらも判断がつきかねた。

かさ・・

木の葉の擦れる音に驚き、過敏に反応してしまう。
恐怖がひたひたと心を埋め尽くす中、千代は必死に考えていた。
今はたまに差し込む光により、昼だとわかる。
辺りは薄暗いが、青々とした緑が空を覆いつくしているから暗いのだ。
日が落ちてしまえば、きっともっと暗くなる。
己の身さえ見えなくなってしまうかもしれない。
そうなる前にここを出たい。
けれど。

「(どっちに行ったらいいのかわからない・・・!)」

孤独と未知の場所への恐怖に、泣きそうになりながら、それでも必死に辺りを見回す。
何処を見ても変わらぬ景色に、千代は覚悟を決めた。
夜になる前に、何処か安全な場所を見つけなければ。
だとしたらどちらへ向かえばいいのだろう。
千代はきょろりと地面を見渡すと、10センチほどの細い枝を拾い上げた。
東西南北を適当に決め、十字を描き、真ん中に棒を立てる。
棒を指一本で支え、3つ数えて離した。

「(でやっ)」

棒は、南を指した。
千代は暫く棒が倒れた方向を見つめていたが、意を決して立ち上がり荷物を抱きかかえた。
今はひたすらに進むしかない。
これでもし森の奥へ行ってしまったとしても、動かないよりはましだ。
そう決めて。

そうして千代は進んで行った。
後には地に残った十字と東西南北の文字。
それから細い枝。

千代がいたという痕跡だけは確かにそこにあった。
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