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あのあと

黄猿たちに追い詰められ

絶体絶命だったルフィたちは

バーソロミュー・くまによって

命からがら、どこかへちりぢりに飛び立っていった



「・・・・これは・・見過ごせないねぇ・・・」

黄猿がくまを見ながら、ぽつり、呟く。
王下七武海であるくまの思わぬ裏切りに、政府はどのように反応するだろう。
また、父と兄を傷つけられたあの天竜人の娘は、どうするのだろう。
何か考えているのか、冥王も金太郎も花も、言葉を発することなく。
ただ花だけが、1人その場を後にした。

行き先はわかっているのだから、焦ることはないのだ。

でも、何かやるせない感で苛まれている心を持て余していた。
人道的でない天竜人の奴隷への振る舞いも。
彼らが祖先の功績や血に驕る様も。
黄猿やパシフィスタの無情なまでの攻撃も。

いつもいつも、嫌というほど、今まで見せ付けられたものだったのに。

理解していたはずのものだったのに、こうまでも愚かしいものだったかと。

「・・・苦しい、」


ただ知識として頭の中にあっても、理解はしていなかったのかもしれない。
目の前で何度見せ付けられた行為によって、いつまでも苦しい思いをする。
それは怒りや恨みのために動くことが出来ない不満からか。
それとも、理不尽なものを見せ付けられることの悲しさからか。
どちらにせよ、花はただその感情を己のうちで持て余すしかないのだ。

なぜなら、花もまた海軍に飼われている身なのだから。

「エース・・・」

此方の牢獄で刻一刻と命を削る彼の人を思い浮かべ、頭を垂れる。
己に力がありながら、何かを助けることすら出来ない。
花は溢れる涙を拭うことすらせず、ただ血が出るまで唇をかみ締めた。









「花ーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

媒介であるピアスを通して、花を呼んだ。
女ヶ島に飛ばされてから騒動を経て、落ち着いたときふと思い出したのだ。
以前花からピアスを渡されて、何かあったとき、これに向かって名を呼べと。
ルフィは思い出した途端、素直にそれを実行した。
思い切り叫んだあと、そのまま数秒待つ。
空を見上げていると上空に黒い点が浮かび、やがてそれは人型となって舞い降りてきた。

「おう、花!」

「ルフィ・・・」

暢気に挨拶をすれば、花の眉間には盛大に皺が寄っていた。
見なくても険悪だとわかるその雰囲気で、無意識ではあるが咄嗟に歯を食いしばる。
その次の瞬間、ルフィは花の右ストレートによって吹っ飛んでいた。

「ぎゃーー!」

「きゃぁ、ルフィ!」

2人を見守っていたボア・ハンコックとその妹2人が驚いてルフィが飛んでいったほうを見る。
ルフィは見事に壁に突っ込んでいて、その下半身だけが壁からぶら下がっている状態だ。
ボアはぎっと花を睨むと、そのままの勢いで問い詰めた。

「そなた!いきなり現れて何をするのじゃ!」

凄みのある目で睨まれても、花は涼しい顔のまま。
ただし眉間の皺はより深くなった。

「・・・今のは、ルフィと私の問題であり、あなたには関係ないわ。
 王下七武海、ボア・ハンコック・・・剥奪寸前のあなたには余計にね」

ピアスのついている左耳を押さえながら、花が応える。
ボアの眉間にも皺が寄り、2人の妹は激高した。

「・・ふふ、良い度胸じゃ」

「そなた!姉様に向かってなんて無礼なっ」

「知るか失せろ蛇姉妹」

がーんっっ

ボアの美貌にも欠片も揺るがない花に、ボアたちがショックを受ける。
花はそんな周りはスルーしてルフィの元へと歩いていった。
がらがらと瓦礫から体を引き出していたルフィもまた、花に気づき顔を上げる。

「何の用で呼んだのよ」

あんな馬鹿でかい声出さなくても聞こえるわよ馬鹿

そう小言を言いつつも、用件を聞く。
ルフィは真剣な顔になり、花に問うた。

「エースが処刑されるのは、知ってたか」

「知ってるわ」

「なら、俺たちと中枢へ行ってくれ!
 エースを処刑されるわけにはいかねぇんだ」

「それをエースが望むとでも思ってるの?」

「・・だからって見殺しになんて出来ねぇだろ!」

そこまで聞いて、花は黙った。
ルフィもまた黙り花の返答を待つ。
暫しの間、皆が無言になった、と思った次の瞬間、また花が話し始めた。

「・・・・・それは、もう決めたのでしょう」

「あぁ」

「処刑時には、王下七武海の面々と海軍本部が脇を固める。
 そこにいるボア・ハンコックもそうでしょう。
 今までだってそうだけど、最重要人のエースを助け出すのは容易じゃない。
 となると、先に大監獄へ行くことが重要になるけれど、それだって1人じゃ無理よ。
 そこまではわかってるの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ」

「・・・あんまりわかってないのね。
 でも、いいわ・・・どうせ覆せないのなら、着いていったほうが安心ね」

「じゃぁ、来てくれるのか!?」

「仕方なく、よ」

「良かった~!ありがとう、花!!」

安心して笑ったルフィとボアがその後の計画を立てるため歩き出す中。
花は1人空を眺めて、悲しげな目をしていた。



このままで終わるなんて、誰も思っていない。


ただ、エースが助けられることを祈るのみだった。
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