呟きたいときくるところ
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「お館様、千鵺、参上いたしました」
静かな声で己の登場を伝え、その場に跪く。
彼の人は、仮にも己が主だから。
普段敬意を払わずとも、ちゃんとしたときにはきっちりする。
それが千鵺の性格だった。
「うむ」
千鵺が来ても背を向けたままだった人影が、一言唸る。
何か重要なことを考えているのであろうその人の邪魔を、千鵺はしない。
それが何より愚かしいことだと、知っているから。
しばしの沈黙のあと、人影は振り向き、目の前に跪く千鵺を見た。
「御呼びとのことでしたが」
振り向いたことを気配で察し、先んじて声をかける。
主が何かに迷い、考え込んでいるのが手に取るようにわかるから。
そこから救い出せるのは、己だけ、と何故か理解していた。
「・・・うむ」
また一言、唸る。
何が彼を悩ませるのだろう、そう思って、気づく。
あぁ、彼も、本当は私に破壊をさせたくないのだ、と。
それでも、無駄に命を消すわけにはいかないから、彼は悩むのだ。
こちらと立てればあちらは立たず。
将であるがゆえの葛藤は、いつだって皆を苦しめる。
それでも千鵺は理解していたから、自分からこう進言した。
「お館様がお決めになられたこと、私に異存はありませぬ」
さぁ、命令を
すぅ、と顔を上げて己が主の顔を真正面から見つめる。
本来ならば主の許しを得てから、の行為。
それを咎められないのは、相手が千鵺だから。
「・・・・千鵺、」
それでも何かを躊躇するように名を呼ぶ声を、故意に遮る。
言わせてしまえば、きっと何かが狂ってしまう。
それでは意味がないのだから。
「お館様」
真っ直ぐな瞳で、恐怖も後悔も、悲しみの色さえも映さず、ただ見つめる。
その目は、明朗に千鵺の心情を物語っていた。
恐怖もない、後悔もない、悲哀もない。
けれど、悲壮な覚悟の色。
千鵺は自分の役回りを、誰よりも理解していた。
そうして生きるためだけに生み出されたものだから。
「・・・千鵺、お前に命ずる。
戦線を駆け、豊臣秀吉を討つのだ」
苦しげに吐き出された言葉を、千鵺はそのまま受け止めた。
これで決まった。
豊臣を、滅ぼす。
「御意のままに」
頭を下げ、意を受け取ったことを態度で示す。
そうして主の返事を待たず、千鵺はその場から掻き消えた。
あとに気配すら残さずに。
その場に残った主が眉を顰め、千鵺がいた場所を見つめ続けていたことは。
千鵺の知る由もないことだった。
静かな声で己の登場を伝え、その場に跪く。
彼の人は、仮にも己が主だから。
普段敬意を払わずとも、ちゃんとしたときにはきっちりする。
それが千鵺の性格だった。
「うむ」
千鵺が来ても背を向けたままだった人影が、一言唸る。
何か重要なことを考えているのであろうその人の邪魔を、千鵺はしない。
それが何より愚かしいことだと、知っているから。
しばしの沈黙のあと、人影は振り向き、目の前に跪く千鵺を見た。
「御呼びとのことでしたが」
振り向いたことを気配で察し、先んじて声をかける。
主が何かに迷い、考え込んでいるのが手に取るようにわかるから。
そこから救い出せるのは、己だけ、と何故か理解していた。
「・・・うむ」
また一言、唸る。
何が彼を悩ませるのだろう、そう思って、気づく。
あぁ、彼も、本当は私に破壊をさせたくないのだ、と。
それでも、無駄に命を消すわけにはいかないから、彼は悩むのだ。
こちらと立てればあちらは立たず。
将であるがゆえの葛藤は、いつだって皆を苦しめる。
それでも千鵺は理解していたから、自分からこう進言した。
「お館様がお決めになられたこと、私に異存はありませぬ」
さぁ、命令を
すぅ、と顔を上げて己が主の顔を真正面から見つめる。
本来ならば主の許しを得てから、の行為。
それを咎められないのは、相手が千鵺だから。
「・・・・千鵺、」
それでも何かを躊躇するように名を呼ぶ声を、故意に遮る。
言わせてしまえば、きっと何かが狂ってしまう。
それでは意味がないのだから。
「お館様」
真っ直ぐな瞳で、恐怖も後悔も、悲しみの色さえも映さず、ただ見つめる。
その目は、明朗に千鵺の心情を物語っていた。
恐怖もない、後悔もない、悲哀もない。
けれど、悲壮な覚悟の色。
千鵺は自分の役回りを、誰よりも理解していた。
そうして生きるためだけに生み出されたものだから。
「・・・千鵺、お前に命ずる。
戦線を駆け、豊臣秀吉を討つのだ」
苦しげに吐き出された言葉を、千鵺はそのまま受け止めた。
これで決まった。
豊臣を、滅ぼす。
「御意のままに」
頭を下げ、意を受け取ったことを態度で示す。
そうして主の返事を待たず、千鵺はその場から掻き消えた。
あとに気配すら残さずに。
その場に残った主が眉を顰め、千鵺がいた場所を見つめ続けていたことは。
千鵺の知る由もないことだった。
PR
この記事にコメントする。