呟きたいときくるところ
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ひらひらと舞い落ちる花びらに
心癒されたのはいつだったろう
あの日から
庭の桜は花をつけなくなった
かさりと僅かに音を立てつつ、草の上を歩む。
何をしても気づかれないようなそんな気がして、千鵺は姿を隠すのをやめていた。
「ふつー気づかれるよね、何でこんな堂々としてんの」
笑いながら自分で自分につっこみつつ、竹中半兵衛の居室を探す。
まだまだ余裕たっぷりで、辺りを散策していた。
けれど既に今は夕刻を過ぎ、宵闇が辺りを覆う頃。
僅かに人影が見えるくらいから、やがて黄昏の時が近づく。
誰そ彼・・・すれ違う人の顔すらわからぬ、逢魔が時。
見る見るうちにそれも過ぎ、辺りは完全に闇が覆う。
若い女子の千鵺は、それでも平気で場内探索を実行した。
闇こそ千鵺の生きる場所だった。
「さて、本日は月のない、絶好の暗殺日和になりました」
独り呟き、にこりと嗤う。
軽く準備運動を兼ねて、城の屋根へと飛び乗った。
「さぁ、そろそろ遣りますか」
屋根から、小柄な人影が掻き消える。
音すらなくその場から姿を消した少女は、次の行動に移っていた。
探索がてら見つけていた、標的の部屋へ忍びこむ。
「見ィーつけたぁ・・・」
標的、豊臣が軍師、竹中半兵衛。
「ねぇ・・あなたはどれだけ楽しませてくれる・・・?」
束の間、降り注いだ月の光が、妖しく千鵺の姿を浮かび上がらせる。
月は瞬く間に姿を消し、まるで異形のようなその姿を、見た者は誰もなかった。
その頃、武田側。
腕を組みつつ仁王立ちし、何かを考え込む城主の姿があった。
傍らに額ずく若者は、心配げに眉ねを寄せながらも口を挟まない。
月も見得ぬ闇を見据え、主はただ難しい顔をして、黙っていた。
その心にあるのは、小柄な少女のことだった。
「・・・幸村よ」
やっと、静かに主が発した声に、若者が顔を上げる。
己が主の顔を真っ直ぐに見上げ、ただ一言、返事をした。
「・・はい」
「お前は千鵺のことを、どれ程知っておる?」
「・・・・」
そういわれた後、返事を返すことが出来なくなった。
よく考えてみれば、千鵺のことなど欠片も知らないことに気づく。
ある日突然現れ、なし崩し的にお館様に保護された千鵺。
幸村は主の考えたことだから、と否やは唱えなかった。
保護されたその日から、千鵺の立場はただ「居候」だった。
1年後、ある事件が起きて自分に並び立つ地位を彼女が手に入れるまで。
それからまた1年のときが過ぎても、彼女のことを知ることはなかった。
どこで生まれ、何故ここに来て、今の地位を手に入れたのはどうしてか。
佐助も込みで仲は良かったのに、それを聞くのは何故か憚れて、今に至る。
知っているのは、彼女の名前だけ。
「・・・・知っているとは到底言えぬほど、でございます」
目の前に突きつけられた現実に多少傷つきながらも、正直に返す。
唐突に、千鵺のことを何一つ知らなかったのだと、気づいた。
「・・そうか、千鵺は自分から己のことを語らん女子じゃからのぅ・・・」
幸村は考え込みながら黙って続きを待った。
「・・千鵺は、わしが拾ってきた・・・そうじゃな?幸村」
「はい」
「あれは突然戦場に現れ・・そしてわけもわからぬまま近くにいた者に縋ったのじゃ」
「は?戦場に、でございますか」
きょとん、とした幸村の顔を見ず、宙を見据えたまま頷く。
拾った当時のことを思い返しながら。
「そう、あれは・・・上杉との戦の折・・・」
ぽつりぽつりと語り始めた主の声に、ひたすら耳を傾けた。
初めて聞いた千鵺のことに驚きながらも、ただ一心に。
予想を遥かに超えた千鵺の生い立ちに、幸村は酷く驚いていた。
心癒されたのはいつだったろう
あの日から
庭の桜は花をつけなくなった
かさりと僅かに音を立てつつ、草の上を歩む。
何をしても気づかれないようなそんな気がして、千鵺は姿を隠すのをやめていた。
「ふつー気づかれるよね、何でこんな堂々としてんの」
笑いながら自分で自分につっこみつつ、竹中半兵衛の居室を探す。
まだまだ余裕たっぷりで、辺りを散策していた。
けれど既に今は夕刻を過ぎ、宵闇が辺りを覆う頃。
僅かに人影が見えるくらいから、やがて黄昏の時が近づく。
誰そ彼・・・すれ違う人の顔すらわからぬ、逢魔が時。
見る見るうちにそれも過ぎ、辺りは完全に闇が覆う。
若い女子の千鵺は、それでも平気で場内探索を実行した。
闇こそ千鵺の生きる場所だった。
「さて、本日は月のない、絶好の暗殺日和になりました」
独り呟き、にこりと嗤う。
軽く準備運動を兼ねて、城の屋根へと飛び乗った。
「さぁ、そろそろ遣りますか」
屋根から、小柄な人影が掻き消える。
音すらなくその場から姿を消した少女は、次の行動に移っていた。
探索がてら見つけていた、標的の部屋へ忍びこむ。
「見ィーつけたぁ・・・」
標的、豊臣が軍師、竹中半兵衛。
「ねぇ・・あなたはどれだけ楽しませてくれる・・・?」
束の間、降り注いだ月の光が、妖しく千鵺の姿を浮かび上がらせる。
月は瞬く間に姿を消し、まるで異形のようなその姿を、見た者は誰もなかった。
その頃、武田側。
腕を組みつつ仁王立ちし、何かを考え込む城主の姿があった。
傍らに額ずく若者は、心配げに眉ねを寄せながらも口を挟まない。
月も見得ぬ闇を見据え、主はただ難しい顔をして、黙っていた。
その心にあるのは、小柄な少女のことだった。
「・・・幸村よ」
やっと、静かに主が発した声に、若者が顔を上げる。
己が主の顔を真っ直ぐに見上げ、ただ一言、返事をした。
「・・はい」
「お前は千鵺のことを、どれ程知っておる?」
「・・・・」
そういわれた後、返事を返すことが出来なくなった。
よく考えてみれば、千鵺のことなど欠片も知らないことに気づく。
ある日突然現れ、なし崩し的にお館様に保護された千鵺。
幸村は主の考えたことだから、と否やは唱えなかった。
保護されたその日から、千鵺の立場はただ「居候」だった。
1年後、ある事件が起きて自分に並び立つ地位を彼女が手に入れるまで。
それからまた1年のときが過ぎても、彼女のことを知ることはなかった。
どこで生まれ、何故ここに来て、今の地位を手に入れたのはどうしてか。
佐助も込みで仲は良かったのに、それを聞くのは何故か憚れて、今に至る。
知っているのは、彼女の名前だけ。
「・・・・知っているとは到底言えぬほど、でございます」
目の前に突きつけられた現実に多少傷つきながらも、正直に返す。
唐突に、千鵺のことを何一つ知らなかったのだと、気づいた。
「・・そうか、千鵺は自分から己のことを語らん女子じゃからのぅ・・・」
幸村は考え込みながら黙って続きを待った。
「・・千鵺は、わしが拾ってきた・・・そうじゃな?幸村」
「はい」
「あれは突然戦場に現れ・・そしてわけもわからぬまま近くにいた者に縋ったのじゃ」
「は?戦場に、でございますか」
きょとん、とした幸村の顔を見ず、宙を見据えたまま頷く。
拾った当時のことを思い返しながら。
「そう、あれは・・・上杉との戦の折・・・」
ぽつりぽつりと語り始めた主の声に、ひたすら耳を傾けた。
初めて聞いた千鵺のことに驚きながらも、ただ一心に。
予想を遥かに超えた千鵺の生い立ちに、幸村は酷く驚いていた。
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