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呟きたいときくるところ
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たん、と軽やかに地に降り立つ。
けれどそのことに気づいた者は1人もなく、音すら聞きとがめられなかった。
ここまで簡単に忍びこめるのも、何だか味気ない。
たとえそれがいつものことだとしても。

「さぁて、どっから手をつけましょうかねー」

柱の陰に寄り添いつつ、思案を巡らせる。
お館様の元を辞してから、千鵺はすぐに標的のもとへ来ていた。
仕事は迅速にこなす、それが千鵺のモットーだった。

「てか・・ここ、一体どこでしょ・・・」

きょろきょろと辺りを見回し、呟く。
ここは大阪、豊臣の本拠地・・・・ではなく。
豊臣が軍師、竹中半兵衛が治める稲葉山へ来ていた。

「如何な大軍とて、頭獲っちゃえば力も半減よ」

そういうことで選んだ場所ではあったが、如何せん、城の見取り図を見ずに来てしまった。
とりあえず忍びこんだはいいものの、今自分が何処にいるのかさっぱりわからない。
相変わらず辺りを見回しつつ、千鵺はため息を吐いた。

「やっぱ佐助に聞いとくべきだったかー・・・」

今更思ったところで後の祭りであることは重々承知済み。
ならば。

「天辺まで行ったら何かわかるかな」

にっ

不敵な笑みを満面に湛え、千鵺は動き出した。
目指すは城の頂上。
隠れていた柱の陰から、次の陰へ移っていく。
陰がするすると移動していく様は、何故か不自然には見えなかった。




その頃。

「お館様、如何なされましたか」

主君武田信玄の元へ、赤い鎧を纏った半裸の男が近づく。
頭に鉢巻をして、赤白の衣を纏うまだ若い男は、信玄に仕える武将だ。
名を、真田幸村。
佐助が仕える主であり、千鵺の同僚でもある。

「うむ・・・幸村よ」

「は、」

押し黙っていた信玄が口を開く。
幸村は黙って続きを待った。

「千鵺は、既に発ったか」

「は?」

予想外の問いかけに、間の抜けた声が出てしまった。
幸村は戸惑いながらも、主の問いに答えた。
内心では、この答えを主が知っているということを理解しながらも。

「は、千鵺なら、とうに目的地へ着いている頃ではないかと」

「そうか・・・」

そう答えた幸村に、意識のない声で応える。
そんなことは信玄にだってわかっていた。
けれど問わずにはいられなかった、ということは、幸村には理解できまい。
信玄は遠くを見つめながら、未だ悶々とする心中を持て余していた。
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