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てんてんてん、
軽い音を残して、手鞠が転がってゆく。
力の抜けた手から零れ落ちた軽く丸い玉は、そのまま転がり続け、やがて視界から消えた。
大嫌い、と先ほど叫んだはずの音が、耳の中で木霊する。
嫌い、嫌い、嫌い。
何もかもが嫌になって、咄嗟に叫んだ言葉は、刃となって己へ帰ってきた。
体が、心臓が切り裂かれたかのように痛む。
自分で言ったことだったのに。
相手の悲しげな顔を見た瞬間、苦しくなった。
そしてやっと気づく。
こんなこと、本当は思ってなかった、なんて。
呆然としてる間に、やがて世界は暗転し、世界から自分だけ零れ落ちる感覚に目を閉じた。



「・・・・ここ、」

どこ?

ぱちくり、驚きをそのまま瞬きに乗せて、声にならない声で呟く。
目を覚ましたとき、自身を囲む環境は様変わりしてした。
芝生のように整えられた綺麗な草地に、横たわって寝ていたようだった。
上半身だけ腕で支え起こし、周りをぐるりと見渡す。
頭が上手く動いてくれないのを自覚しながら、尚もきょろきょろと目を泳がせる。
どういうことなのか、さっぱりわからない。
何故、神社の境内に居たのに、目が覚めたら周りが森になっているのか。
目を瞑り、ふるふると頭を振り、ちゃんと目を覚ませと己を叱咤する。
頭を振りすぎてめまいを起こしそうだった。
ぎゅっと目を瞑って現実逃避をしたくなる。
恐る恐る、もう一度目を開けても、夢は覚めてくれなかった。
暫しの沈黙後、渋々体を起こして座り込む。
こんなのってない、そういう思いが沸き起こり、視界がじわりと滲んだ。
何をしたらこういう羽目に陥るのか、まだ10を過ぎたばかりの安芸にはわからなかった。

「・・・・おまえ、」

「きゃああっ!!」

がさり、茂みを揺らして唐突に現れた人間に驚き、心臓が鷲掴みにされたかのように縮んだ。
思わずといったように悲鳴をあげた安芸を前に、眉をしかめて顔を背ける。
安芸は安芸で、自分の悲鳴に驚きつつも新たに出現した他人に怯えていた。
人間は壮年の男のようで、がっしりとした体格と高い背がまるで巨人のように見えてしまった。
加えて鋭い目線が安芸を恐怖に陥れる。

「・・・何者だ」

低く地を這うような声に、更に身をすくませる。
怖くて怖くて仕方がなかった。
初めて見る、大人の男。
それも怖そうな人。
唐突に変わってしまった世界に怯えていたのに、加えてこれでは怯えるのも仕方ないと微かに残った理性で思った。
男の問いに返す言葉を、安芸は持っていなかった。

「お前、迷子か」

「・・・・・・」

びくびく、怯えながら泣きだしてしまった少女を前に、男が困ったようにため息を吐く。
以前厳しい表情を改めていないことから、安芸の警戒心は溶けようもなかった。
男は見下ろしていた体勢から一転、しゃがみ込み安芸と同じ目線まで降りてきた。
少なくとも、同じようにしようとしている気持ちは伝わってきた。
その姿勢から少しは警戒心も薄れたが、依然怯えている安芸は何も喋れない。

「名前は」

問われている内容はわかる、けれど声が出ない。
涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、男を見つめる。
男はただ黙って、安芸の返答を待っているようだった。
その姿に、ただ怯えるだけじゃなくきちんと受け答えをしなければという思いが頭を擡げる。
安芸は何度もつばを飲み込み、声を出そうと努力し始めた。

「・・あ、安芸」

「そうか」

やっとの思いで名乗ると、淡々と返事がくる。
ぐずぐずと鼻をすする小さな少女を、どうしたらいいのか考えあぐねているようだった。

「どこから来た」

「・・・・わ、わかんないぃ~・・」

わからない、その言葉を口にした途端、悲しみが喉から出ようとする言葉を押しつぶしてしまった。
わからないことが悲しかった。
唐突な環境の変化に戸惑ってもいた。
今の安芸は、心細くて仕方なかったのだ。
再び泣き出してしまった少女を前に、男が軽く頭を掻く。

「・・・なら、とりあえず一緒に来るか」

男が、ぽつり、安芸へ提案する。
そう言ってしまったことに男自身が戸惑っているようだった。
安芸は涙で滲む視界をそのままに男を見上げ、やがて頷いた。
直感も含め、安芸に縋れるのは目の前の男だけだということを知っていたから。

「じゃあもう泣くな」

安芸が頷いたのを見て、男が眦を下げる。
男の手がすっと安芸の顔に伸びて来たのには一瞬驚いたが、その手がぎこちなくも優しく涙を拭ってくれたのには更に驚いた。
ぱちくりと瞬く安芸の目から零れる涙を、男はただ優しく拭いてくれた。
その優しさが何故か胸を突き、安芸は結局大泣きしてしまったのだった。





(続く)

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