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うららかな日

ここサンワの庄でも

いつものように一日が過ぎていく

はず、だった――――


ひよこ娘と飛蛇使い



「働きまぁす!!」

一喝してやれば、青い顔で返事をし、くるりと背を向ける。
見た目少年に見える、ボロを来たその人は、胸はないが確かに少女だ。
ひょんなことから関わりを持ってしまい、怪我の手当てまでした、その上。
ここサンワの庄に行きたいと言っていたから、つい連れてきてしまったのだった。
けれど、ラムカは連れてきたことを既に後悔していた。
ラシワのじじいのおかげで里の秘密に気づかせてしまった。
このままおめおめと里の秘密を暴かせるわけにはいかない。
いくら行くあてのない奴だからと言っても、連れてくるんじゃなかった。
あんなひよこ娘――――。

「ん?」

ぴょこぴょこ忙しなく動き働くカナンを見ていた、視界の端っこで何かが揺れた。
反射的にそちらのほうを向けば、茂みの中からこちらを覗く一対の目と目があった。

数秒、沈黙。

ざくざくざくと無言で近づき、剣を突きつける。
おまけに顔もぐいと近づけ相手の顔をよく見てやった。

「おい」

「はい」

ぱちくり。
そんな表現がしっくりくるような動作で、瞬き一つ。
涼やかな小さな声で、返事をされた。
剣呑な声で言ってやったのに、何とも思っていないかのように、表情は歪まない。
心底から何の用か、と思っている・・風に見える。

「はい、じゃねぇ。そこで何してんだ」

「・・・何も・・・強いて言うなら、見物でしょうか」

かっちーん

そんな効果音が、頭の中に響いた気がした。
すらりと剣を一つ振り、不審者の首の突きつけた。
首と剣の隙間は、紙一枚程度。
それなのに、一切驚く仕種を見せない。

「・・・・・ごめんなさい、本当に、何も考えずここに来たので」

ぽつりと呟かれた言葉は、何故かとても重く悲しげだった。
悲しげな表情をしているわけではない、けれど、心が啼いている。
そんな印象を与えられる声だった。

「ら、ラムカさんっ!ちょ、ちょっと落ち着いてください!!」

後ろからひよこ娘、もといカナンにしがみつかれる。
おかげで、もう少しで首の皮を切ってしまうところだった。

「お前のほうが危ねぇんだよっ!」

「ご、ごめんなさいいぃ!!」

「君、大丈夫かね?」

ラムカがカナンを怒鳴りつけているうちに、ラムカの父である領主が話しかけていた。
フードを深く被っているので、見えるのは目と鼻と口、それくらいだ。
けれど、相手の目が思ったよりも澄んでいるので、不意を衝かれたように動きが止まる。
不審者は寸の間領主を見上げ、沈黙するも、ふわりと微笑んだ。

「・・ありがとう、大丈夫です」

まるで花のような微笑に魅了されたか、ラムカもカナンも固まってしまった。
そうして笑った時間はとても短かったけれど、それでも効果は絶大だったと言えよう。
不審者がフードを取る為俯き、また顔を上げる間、誰も身動きをしなかった。

「私は、ナユタといいます」

ナユタがフードを取ってからも、やはり寸の間、沈黙があった。
フードの下から現れたのは、白い肌の整った顔だった。
煙るようなまつげと、淡い栗色をした長い髪。
実際の身元が知れたわけではないのに、怪しいと思ったのは最初だけだった。

「・・・綺麗な人・・」

惚けたようにカナンが呟けば、はっと自分を取り戻したラムカがカナンをどつく。
何でですかぁっとカナンが抗議すれば、ラムカがうるせぇと突き放したりと途端に騒がしくなった。
それを見たナユタが楽しげに笑うと、ラムカが罰の悪そうに頭を掻く。
空気が和んだのは、カナンのおかげなのかもしれない、とナユタは思っていた。

「私は、行くあてもなく彷徨う旅人です。暫しの間、ここに置いてはもらえないでしょうか」

ナユタがそう言い出せば、ラムカが難しい顔をする。
身元不明で名前しかわからない不審者を、そうほいほいと里に入れるわけにもいかない。
腹のうちで何を考えているかわからないからだ。
けれどナユタの目を見れば、その考えも揺らいでしまいそうになる。
ナユタは、真っ直ぐな目をしているから。

「・・・何が出来る?」

「ラムカさんっ?!」

「ラムカ?」

しばらく思い悩んだ末、ラムカの口から出たのは、その一言だった。
カナンと領主が驚いて声をかける。
ナユタは寸の間きょとんとするが、すぐにラムカの質問に答えた。

「この手で出来ることは少ないですが、出来る限りであなた方の力となりましょう」

そういったナユタの目は、深い藍の色を帯びていた。
まるで永く生きた賢者のような、知恵者の目のように見え、ラムカは心を決めた。

「・・・・わかった」

「ラムカさん・・・」

「暫くの間だけだからなっ!働け!」

そうラムカが宣言した途端、カナンが歓声をあげた。
領主もほっとした顔をして、胸を撫で下ろしていた。


こうして、サンワの庄で新たな居候が2人増えた。



今後起こることを想像できていたのは、ただナユタ独りだけ――――
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