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すれ違い、1人で過ごす日々
退屈で、けれど平穏な日々
何気ない日常が殊更愛おしく感じられるのは

きっと、大事に思える人が増えたから

光雲の行く末6


ぱたぱた
小さな足音が聞こえる方向に、足を進める。
そうして歩くうちに音に追いつき、角を曲がった先にいたのは、華奢な少女だった。
後ろから追いつく人影にまだ気づく様子はなく、目的地までの道のりを進んでいる。
その無防備さが、ことさら可愛らしく思えた。

「姫さん、」

「・・・っ!!」

いつものように声をかけただけ、のはずだった。
が、やはり本当に無防備になっていたのだろう千代は、ものすごく驚いて跳ね上がった。

「おいおい、大丈夫か・・って、ゴメンな、俺様のせいか」

苦笑しつつも謝れば、勢いで振り返った千代が、恨みがましく睨む。
それも涙目なので特に怖くはなく、かえって愛らしくさえ見えるほどだ。
贔屓目で見ても千代は綺麗な顔立ちをしていた。

「気配、なかった・・!」

下手をすれば聞こえないくらいの小さく掠れ気味の声で、文句を言う。
この声を聞くたび、佐助は小さく胸が痛むのを感じていた。
森に倒れていた彼女を拾い、この城につれて来たのは佐助だ。
発見当時は泥だらけ傷だらけ、おまけに目を覚ましたと思ったら声が出なくなっていた。
それから何故か3日間目を覚まさず、ようやく起きたときには声がこんな状態で。
責任は自分にはない、わかっていても辛かった。

「ごめんって」

苦笑しつつ、千代の頭を軽く叩いてやる。
そうすると千代は文句があっても黙るしかないのだ。
案の定、千代はまだ不満そうにしながらも、文句を言ってこなくなった。
きっと自分に父か兄の像でも見ているのだろうと思うと、少し複雑だった。

「姫さん、今日は久しぶりに暇が出来たんだ」

そう言えば、千代が喜びに目を輝かせるのがわかった。
犬か、と少し笑ってしまい、千代に不思議そうな顔で見られて焦る。
誤魔化すために千代の頭を撫でれば、更に怪訝そうな顔になった。
くり、と小首を傾げられ、何?と聞かれているのだろうと判断する。

「何でもないって」

そういっても、しばらく顔は複雑そうなままだった。
おまけに千代を眺めていたら何故か可笑しくなって、また笑ってしまった。
笑いながらも、こうした何でもない日常が、とても愛おしく思った。






千代は笑っている佐助を見ながら、こんなに笑う佐助はあまり見た覚えがないと思った。
半年ここで暮らしながら、共に過ごした日々は半分にも満たない。
それでも、少しはこの世界がどんなところかわかったし、佐助がどんな人なのかもわかった。
例えそれが世界にしろ佐助にしろ表面しか見ていなかったとしても。

この世界は、どうやら戦国時代と酷似した世界らしい。
歴史を学んで覚えていた人物が多数存在しており、国も地形も役職すらそのままだ。
けれど、知らない人も勿論居るし、同じ年代に存在しないはずの人もちらほら。
色々史実と違う上に、炎や闇やら普通の人間なら出来ない技が使えるらしい。
保護してくれた信玄や幸村は炎を纏って戦うし、佐助でさえ闇の力を使う。

考えれば考えるほど、千代の常識と相反する世界なんだと認識した。
これ以上考えたら多分自分が可笑しくなる、そう思った千代はとりあえず考えることをやめた。
この世界はこの世界で存在するのだから、それでいいじゃないか、と。

一つだけ確かなのは、ここが自分の居た世界の過去ではない。
異世界だということだけだった。
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