呟きたいときくるところ
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眠りが必要な体ではないから、毎夜時間が余る
ヤク小屋の外にラムカが居るかもしれない恐れから
外で時間つぶしが出来なかったのは辛いけれど
日々、幸福感をかみ締める
何百年ぶりかの、ヒトのぬくもり
タブラ・ラサ 4
篭作りは一旦やめ、他の手伝いにまわる事になった。
おばさんは作った篭を売りに、サンワを留守にしている。
ナユタはカナンとラムカの仲が急速に近くなっていることを、傍で見て感じていた。
さぁ次は、何が起こる?
「えーと・・・あれ、人食いはいつ来るんだっけ?」
雑草むしりを頼まれ、1人回想しながらちまちま仕事を進める。
ふと思い出した、人食いの存在。
飛蛇の毒を扱うところで働いた咎か。
普通の飲食物を受け付けなくなり、人食いに身を落としたモノ。
話があるのは、確かそろそろだったはず―――?
「あれ、なんか騒がしい・・?」
考え事をしている間に、何やら辺りが騒がしいことに気づく。
人食いの前に、何があったっけ?
「あぁ、ナユタ!今、ティンとこのチュミちゃんが・・っ」
「・・え?」
通りがかったおばさんが、教えてくれた。
あぁ、そうか、忘れていた。
ティン少年の妹、チュミはもう永くない体だったのだ。
強い薬も効かないようになってしまっていて、ラサムにも手の施しようがなかった。
それを、ナユタはすっかり忘れてしまっていたのだ。
ティンやチュミとほとんど関わることがなかったため、必然とも言える。
そうして程なくして、チュミの葬式が行われた。
葬式のとき、せめて少しでいいからと経を乞われたカナンが、断る。
経を唱えられないことに悲しむカナンを横に、ナユタはぼんやり考え事をした。
今のカナンは、本当の『カナン』ではないから、唱えられないのが当たり前なのだ。
教えられてもいないものを、どうして唱えられよう?
そう考えていたとき、ふとティンが居ないことに気づいた。
「ティン!」
誰かが、ティンを呼ぶ。
ティンはチュミの髪を一房握り締め、岩を登ろうとしていた。
出来るだけ高いところで髪を燃やせば、それだけ早く生まれ変われるからと。
天へチュミの髪を届けたい、その一心で動いた、ティンだった。
カナンはふと違うほうの岩山を見つけ、そちらのほうが高いと登り始めた。
カナンがチュミの髪を受け取ろうとしたその時、一匹の飛蛇がカナンに近寄ってきた。
あの夜、カナンが空へ帰した飛蛇のうちの一匹だった。
カナンが髪を飛蛇に銜えさせると、飛蛇はまた空へと帰っていった。
ラムカとカナンがティンを捜しに行った時、ナユタはその場に残った。
飛蛇に会うのは、今はまだその時ではないと思ったから。
その代わり、他の女たちと飯炊きをした。
今の自分に出来ることは、それくらいだと理解していた。
そうこうしてご飯が出来あがる頃、3人が戻ってきた。
「おかえり。ご飯、食べて。
お葬式だからって悲しみすぎても、良くないのよ」
「そうそう。
いっぱいあるからお食べ。
チュミちゃんとの楽しかったこと思い出して話そうよ。
わたしら庄のみんなでさ」
ナユタがご飯をカナンに渡せば、隣にいたおばさんがにこにこ笑ってそう言った。
そのとき、ティンがカナンにチュミの遺品である人形を渡した。
チュミが大事にしてた人形、とカナンが一旦拒めば、ティンがそれを制す。
「やる。きっとチュミもそう言ってる」
カナンが驚いている間に、ラムカがぽんとカナンの頭に手を置いて褒めた。
そのまま2人があちらへ行ってしまうと、カナンは人形を抱いて泣いた。
その光景を横で眺めながら、ナユタは「いつ出て行こう」と考えていた。
カナンは着々と里の人たちと仲良くなり、受け入れられていっている。
それは里の人たちが良い人であることもあるが、本人の努力の賜物でもある。
ナユタは、薄々自分がまだ馴染めていないことを実感していた。
人々の優しさが嬉しいし、ここにいるのはとても楽しい。
けれど、心のどこかで冷静な自分が居て、全てを否定しているのを感じる。
今の交流も、やがては消えてしまう。
そうしてまた独りに戻るのだ。
私は、そういうモノで、本来ここには居てはいけないものなのだから、と。
その時ナユタが悲しげな瞳をしていたのに気づいたのは、カナンだけだった。
ヤク小屋の外にラムカが居るかもしれない恐れから
外で時間つぶしが出来なかったのは辛いけれど
日々、幸福感をかみ締める
何百年ぶりかの、ヒトのぬくもり
タブラ・ラサ 4
篭作りは一旦やめ、他の手伝いにまわる事になった。
おばさんは作った篭を売りに、サンワを留守にしている。
ナユタはカナンとラムカの仲が急速に近くなっていることを、傍で見て感じていた。
さぁ次は、何が起こる?
「えーと・・・あれ、人食いはいつ来るんだっけ?」
雑草むしりを頼まれ、1人回想しながらちまちま仕事を進める。
ふと思い出した、人食いの存在。
飛蛇の毒を扱うところで働いた咎か。
普通の飲食物を受け付けなくなり、人食いに身を落としたモノ。
話があるのは、確かそろそろだったはず―――?
「あれ、なんか騒がしい・・?」
考え事をしている間に、何やら辺りが騒がしいことに気づく。
人食いの前に、何があったっけ?
「あぁ、ナユタ!今、ティンとこのチュミちゃんが・・っ」
「・・え?」
通りがかったおばさんが、教えてくれた。
あぁ、そうか、忘れていた。
ティン少年の妹、チュミはもう永くない体だったのだ。
強い薬も効かないようになってしまっていて、ラサムにも手の施しようがなかった。
それを、ナユタはすっかり忘れてしまっていたのだ。
ティンやチュミとほとんど関わることがなかったため、必然とも言える。
そうして程なくして、チュミの葬式が行われた。
葬式のとき、せめて少しでいいからと経を乞われたカナンが、断る。
経を唱えられないことに悲しむカナンを横に、ナユタはぼんやり考え事をした。
今のカナンは、本当の『カナン』ではないから、唱えられないのが当たり前なのだ。
教えられてもいないものを、どうして唱えられよう?
そう考えていたとき、ふとティンが居ないことに気づいた。
「ティン!」
誰かが、ティンを呼ぶ。
ティンはチュミの髪を一房握り締め、岩を登ろうとしていた。
出来るだけ高いところで髪を燃やせば、それだけ早く生まれ変われるからと。
天へチュミの髪を届けたい、その一心で動いた、ティンだった。
カナンはふと違うほうの岩山を見つけ、そちらのほうが高いと登り始めた。
カナンがチュミの髪を受け取ろうとしたその時、一匹の飛蛇がカナンに近寄ってきた。
あの夜、カナンが空へ帰した飛蛇のうちの一匹だった。
カナンが髪を飛蛇に銜えさせると、飛蛇はまた空へと帰っていった。
ラムカとカナンがティンを捜しに行った時、ナユタはその場に残った。
飛蛇に会うのは、今はまだその時ではないと思ったから。
その代わり、他の女たちと飯炊きをした。
今の自分に出来ることは、それくらいだと理解していた。
そうこうしてご飯が出来あがる頃、3人が戻ってきた。
「おかえり。ご飯、食べて。
お葬式だからって悲しみすぎても、良くないのよ」
「そうそう。
いっぱいあるからお食べ。
チュミちゃんとの楽しかったこと思い出して話そうよ。
わたしら庄のみんなでさ」
ナユタがご飯をカナンに渡せば、隣にいたおばさんがにこにこ笑ってそう言った。
そのとき、ティンがカナンにチュミの遺品である人形を渡した。
チュミが大事にしてた人形、とカナンが一旦拒めば、ティンがそれを制す。
「やる。きっとチュミもそう言ってる」
カナンが驚いている間に、ラムカがぽんとカナンの頭に手を置いて褒めた。
そのまま2人があちらへ行ってしまうと、カナンは人形を抱いて泣いた。
その光景を横で眺めながら、ナユタは「いつ出て行こう」と考えていた。
カナンは着々と里の人たちと仲良くなり、受け入れられていっている。
それは里の人たちが良い人であることもあるが、本人の努力の賜物でもある。
ナユタは、薄々自分がまだ馴染めていないことを実感していた。
人々の優しさが嬉しいし、ここにいるのはとても楽しい。
けれど、心のどこかで冷静な自分が居て、全てを否定しているのを感じる。
今の交流も、やがては消えてしまう。
そうしてまた独りに戻るのだ。
私は、そういうモノで、本来ここには居てはいけないものなのだから、と。
その時ナユタが悲しげな瞳をしていたのに気づいたのは、カナンだけだった。
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