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神様なんて信じていなかったけれど
こんなときだけは、縋りたくなる

私はきっと、卑怯者なのだろう

光雲の行く末3


「・・・え、まさか」

佐助が、驚いたような顔で問いかける。
けれど何より驚いているのは、千代本人だ。

「・・・・・(声、が)」

あっという間に血の気の引いた千代を案じて、佐助が心配そうな顔をした。
幸村も深刻そうな顔になっている。
ただ1人、不動なのが信玄のみだ。
千代は何度も声を出そうと試みるが、一向に出そうにない。
そのことに、一層パニックに陥った。

「・・・っ!!(声がっ出ない・・っ)」

戸惑いと、恐怖とで、知らぬうちに視界が滲む。
未だかつて覚えたことのないほどの、感情。
未知の恐怖に、どうしたらいいのかわからなくなった。
恐怖に押しつぶされそうになってる心と裏腹に、頭では冷静に「これが押しつぶされるってことなのかも」なんて考えていたりした。

「落ち着けっ!」

「っ!」

突然傍らからの大声に、びくりと体が震え、咄嗟に縮こまる。
そうして怯え縮こまった体が次に感じたのは、温かいもので。

「大丈夫だ、大丈夫だから・・」

抱きしめてくれたのは、佐助だった。
一番手近にいた関係もあるだろうが、それでもやはり驚いて。
暫しその体勢で居て、ようやく安心したのか、眠気に襲われた。
ぽんぽんと頭を軽く叩いてくれたのもあるのか。
そのままあっさりと、佐助の腕の中で眠ってしまった。

あとから考えれば、幼児退行でも起こしていたのかもしれない。
恐怖のあとの安心感から逃れられるはずもないのは確かだが。
恐怖から逃げるためでもあったのかもしれないから。

真か嘘か、その後3日間、千代は眠り続けた。





「・・・眠ったか」

「はい・・」

信玄の言葉に、静かに佐助が頷く。
己の腕の中で再び眠りに落ちた少女を布団に寝かせつつ、言葉が途切れた。
幸村も難しそうな顔で、思案気に千代が見つめていた。
3人とも、ただ考えていた。

「・・・・どうやら、以前は声が出ていたようじゃの」

「目が覚めたらいきなり話せないようじゃ、誰だって驚きますってね・・」

「ぬぅ・・・何があったのだろうか」

3人で考え込む。
そんなことをしたところで何か考え付くわけでもないのだが。
暫し後、信玄がまだ思案顔で、2人に言い渡した。

「この娘のことは、今は追求せずともよい」

本当に落ち着くまでは、ただそのままに


幸村と佐助は静かに頷いて、その場を辞した。
主である信玄の言葉だったからというのもあるが、今はそれが最善のように思われたからだ。
名も、出自もわからぬ、不審者。
そういってもいいような小娘であったけれど、彼らは普通に接してくれた。

後の千代にとって、この時期が人格形成に重要になったのだと思われた。
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